何処へゆくのかと訊かれて、ミュージアムと答えてしまった。
飛行機のチケットを捨てて、このまま北上してしまえば、
カラチは今日が最後だ。残りの時間は観光しようと決めた。
時間は限られてるし、この灼熱の中歩くのでは、目的達すること出来まい。
500と言うので、じゃあ歩くと拒否。
ところが一人の老人が食い下がる。200と言う。
まあホントはせめて100だが、これも何かの縁だからノルかな。
敢えて、乗ることにした。この判断が今日一日を決定した。
タクシーに乗り込むと程なく国立博物館に着く。
お爺さんもついて来る。一緒に博物館へ。
今日は休館。日、月、火のみ。と言われる。
そんなこと「歩き方」には書いてない。
諦めて帰ろうとすると、スタッフから声が掛かる。
特別に見せてやると言う。
エライ人も出てきて、何処からと訊かれ日本と答える。
何に興味があると訊かれるので、イスラムのと答える。
それは一階にコレクションがあるので、楽しんで行きなさいと言われる。
インダス文明、ガンダーラ美術、ヒンズーの像という順で進む。
間近で見ると想像以上に細密で驚いた。感動した。
それから、パキスタン独立の近代史。
装飾美術本としても価値の高いコーラン。精緻である。
出土したコインの後に、シンドの民族衣装を見る。
見慣れたパキスタンの民族衣装に比べ、
女性は派手な色使いでデザインも違う。海洋民族だと思う。
ベトナムチャンパ、ボルネオ、インドネシアで見た衣装に近い。
イスラムの品々は、土器から陶器に、鉄器さらにガラスと変化してゆく。
天文術の道具などもあった。
ひと通り網羅的に把握することが出来た。
スタートがインダス文明からじゃ、イスラムは意外と最近だとも思う。
ウチは浄土真宗で鎌倉時代だから偉そうなことは言えないが、
上座部仏教とかカソリックとかから見ると、イスラムは最近だ。
日本にとっての近代は明治だから、
明治を基準にイスラムは古いかと思ってしまうが、
頭のなかの年表を修正するに、とても役に立った。
出る時に料金を請求される。
ホントは200だが、特別だったんだから300。
それだけの価値はあるから素直に払う。ラフォールよりまだ安いし。
だけど、外国人まず見掛けないカラチじゃ、
観光客いないんだもん、来館者居ないんじゃね。
いつもこの方式なんじゃないの。休日とか関係無く。
門番にワイロ渡す方式。マンダレーでもそうだった。
で、
タクシーのお爺さんは600プラスで、ビーチまで行ってホテルまで戻ると言う。
高いよ500でと言っても譲らない。
オレは折れた。ガイド代だと思った。
別にタクシーかリキシャ捕まえるかバスでゆくことは出来るけど、
改める気力までは無かった。
商談成立で郊外に向かう、景色が変わる。
新興住宅地かもしれんが、あんまり綺麗な感じがしない。
作っては寂れの繰り返しのような気がした。
本当は平和になれば、もっと交易盛んでもっと発展する街なんだと思う。
停滞感は、経済のサーキュレーションの規模の限界にあるのだろう。
兎にも角にもビーチへ、
多分クリフトンビーチというところだと思う。
猿回し、記念撮影、ポニー、ラクダ、全部断ってただビーチを歩く。
実に楽しい、わはは、開放感が足元から広がる。
来てよかった。家族連れもいれば、恋人同士らしき人も居る。
「歩き方」には汚くて泳ぐに適さないとあるが、地元の子供はガンガン漬かってる。
あの重苦しい、灼熱を跳ね返してくれる波と風って凄いことである。
夜を待たないで済む嬉しさは言葉にならない。
小一時間も喜びに浸っていたが、そろそろ戻ろう。お爺さんも待ってる。
300足せば、巨大ドームのモスクにゆくという。
ただの帰り道の途中じゃねぇのという気もするが、
もしまた楽しくて、300円の為に逃したとしたら、
と思うと、抗うことは出来なかった。
高級住宅地を通る。帰り道とは一概に言えないかな。
アップダウンがあってビバリーヒルズってこんな感じ?
道路にはトヨタの新車が増えるので所得層が分る。
そろそろ渋滞が始まった。
ドームは確かに巨大だった。中は涼しく伽藍としてる。
幾何学模様の光がまばらに床に落ちている。
寝てる人も居る。礼拝してる人も居る。
イスラムは偶像禁止だから、何もない。
見事なものである。
ヒゲを剃らない私の風貌では、いつもムスリムかと訊かれるので、
黙っていれば異教徒とは思われない。難なく中に入れる。
何処で靴を脱ぐべきかくらいは、仏教徒でも同じだ。
ただ、礼拝の仕方は分からないので正座して見回していた。
これはこれで来て良かったと思う。
サダルに戻った頃には夕方のラッシュが始まっていた。
お釣りのやりとりが曲折あって、
300返してもらうところ200しかないという。千ルピー札が崩れない。
これもアラーの神思し召しとジジイは言う。
拝観料300、タクシーチャーター料1200。
千と五百の札が一枚づづ消えた。
お陰で短時間で観光三昧なので、これも神の御心かと。
ボラれたとも言えるけど、それはそれで良かった。
だって楽しかったし。価値はあった。
自分一人じゃ、頑張って観光しないものここまで。
それほど積極的でないときに、お金払って相手任せで観光して、
それが期待以上だった。十分のリターンと思う。
昔、似たようなことがあった、
ミャンマーのマンダレーで自転車タクシーのオジサンに話しかけられ、
言われるままに王宮を見学した。そのときもノッて正解だと思った。
あの時も、マンダレー最終日だった。
折角来たんだから、よく見てゆきなさいと、都市から言われてるようだった。
今回はちょっと払い過ぎな気もするが、
それもまた、神様の思し召しであろう。
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