「愛のくだらない」 アンビバレントな才能と、幸福な人間関係は創造の敵

佐久間Pにまんまと乗せられて、新宿夜9時雨の中、わざわざ観にゆきました。


全国公開が決まったそうで、無理しなくてもよかったな。
9/2までと急がなくても。
観て後悔はないけど。
新宿テアトルほぼ満席だったので、もっとゆったり観たかった。

内容は、 
良作ですけど、もう一声。
細かい無神経さを描いて、観客の感情を操るのがとても上手い。
作家性ある監督さん。野本梢という名前は覚えておきたい。
 
ただし、弱点は観てて気になりました。
手弁当でここまでとは凄いこと。なんだろうけど、
もう一つ進化して、大きなチャンス掴んで欲しいですね。
 
 
 
そもそも、タイトルがよくない。
紛らわしいくて、覚えにくい。
「くだらないの中に」なら納得しますが、
星野源の許可取れなかったのか、
NGだったとしても、
「何気ないことの報い」が伝わるタイトルでないと。
伝えたいのは「くだらない」ではないのだから。
 
 
「何気ないことの報い」はよく描けてる。これは才能。
余裕の無さとガサツさと、客観性と愚鈍さと、繊細さとシャープな悪意。
それらが、ごった煮になった根本梢監督の人格が得難い。

世の中には、悪役をステレオタイプで処理するコンテンツも多いですが、
悪役の造形描くのほんとに上手い。
ちょっとしたことを伝えるのが得意なので、
観客の感情は手のひらで転がされます。

 
また、監督自己投影である主人公の醜さを実に客観的に描くもんです。
偏見丸出しで言いますけど、女性でこんな客観性高い人あまり出会ったこと無いです。
こんなシャープな人なのに、グズで愚鈍。
そのアンビバレントな人格が、不思議なリアリティで迫ってきます。
  
 
物語は、
テレビ局に勤める中堅の女性アシスタントプロデューサが仕事に奔走するなか、
だんだんと、良くも悪くも「何気ないことの報い」を受けてゆく。
最後は、贖罪と赦し。 ですかね。それは上手くないかもしれません。
 
腐れ縁の元芸人役が、ななめ45°の電車の人で演技も演出も見事でした。
冒頭、主人公とヤッてるシーンからスタートしますが、
二人の関係性が素晴らしいです。
  
このカップルの話に終始するという方向性もあったのでしょうけど、
LGBTの若いカップルや、子持ちの同級生の友人を登場させ、
群像劇っぽくしてます。
 
主人公が、
刃を研がない木こり的に仕事に奔走する。
それを縦軸に、実体験を元にしたエピソードが展開し、
それぞれの人間模様が描かれるのですが、
群像劇に寄せるのなら、子持ちの同級生でもお話作るべきでしょう。
 
 元芸人のダメ男とファンの看護師、
 LGBTの若いカップル、  
 子持ちの同級生と仕事が不明な外国人の旦那、

それぞれエピソードがあって、
主人公がプロデュースする番組に1組づつ呼ばれる、
そういう話にした方が、座りがいいと思うのだけど、
 
配分がちょっとなぁ。
お話を作る能力はまだまだ、という印象を受けます。
 
 
演出面では、
丁寧なんだけど、説明がくどい。
もっと省略できてテンポ上げた方が観やすいので、
物語が弱いまま、ずっと丁寧。というネチっこい方向には行って欲しくないな。
 
あと、イメージカットは遠慮しなくて、もっと大胆に作家性出していいと思う。
水は本来、浄化ですよね。
 浄化のタイミングで、
 理想の光景が浮かんで、
 浜辺を二人で歩くイメージに繋がる。
として、何度もやればいいのにって、思いましたよ。
タルコフスキーみたいでも良いくらい。
 
風呂で溺れるイメージシーンは、やらないか、何度もやるか、
どちらかじゃないかな。
 
後半お話が収束に向かうのですが、座りが悪い。
単なる関係修復にしないで、
主人公が浄化されつつ、また何気ない報いを繰り返す。
ってエンディングを観たかったな。
 
単なる関係修復で終わっちゃうのは、
根本監督がまだ、映画製作で報われたという実感が無いからかな。
 
そこは早く、報われてもらって、
人間関係以外のところで、自己肯定を得てもらいたいですね。
 
芸術家なんだから、
ポンポさん」の言う通り、
あのラストじゃ、根本監督の創造の敵に成りかねない。
  
 
 
人間は哺乳類脳に多くを支配された生き物なので、
人間関係の中に、幸福を見出します。
でも、幸福のすべてが、人間関係なのは危険。らしいです。

養老孟司は自然という言い方しますけど、
まあ、風流。
人間以外のところで、鑑賞する能力。
 
偏見丸出しで、上から目線で言いますけど、
根本監督は、男性脳的な客観性を鍛えつつ、今の感性をキープ出来たら、
大成すると思うのです。
 
 
次のチャンスでは、もう一声。
進化した姿を観てみたいです。

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