大手配給は腰が引けて日本では鑑賞できなかった作品が、
アカデミー賞効果とビターズ・エンド社のおかげで、ようやく公開された。
まだ観ていない。
ここで予め、
映画館へ足を運ぶつもりで、書き出しておこう。
幾ばくかの予習と、
日本人の多くの感想の同意できない部分を。
そして、作品への疑問点が二つ。
まだ寒いので、外出が億劫。
3時間というのも敬遠する理由。前後編に分けて欲しい。
予習 史実の確認と映画で描かれること
ナチスによって迫害されたユダヤ関係の科学者たちはアメリカに逃れ、
ナチスが核兵器開発より先んじることを目的に団結したのが、
マンハッタン計画。
その天才集団を率い、取りまとめたのがオッペンハイマー。
実際、目的は達成され、ナチス降伏後の8月、
”まだ日本がある”と原爆は広島長崎に投下される。
若くから天才たちが変人なのはアリガチな話だが、
後年の主人公の立場を考えると、
原因となる兆しは映画で描かれそう。彼の周辺だけでなく、
彼自身も共産党員だったと認定されても不思議はない。
原爆の実際の悲惨さの描写がないと日本では非難されがちの本作、
しかし、その話をするなら、
意思決定者であるトルーマン大統領の伝記じゃないかな。
オッペンハイマー視点では、現実に対応してのものではなく、
観念的に悪魔の兵器を生み出してしまったことへの罪悪感のみ。
最後通牒なしの投下、原爆早期終結論については、後述するが、
日本人の失敗学は充分とも思わない。
日本人の感情は当然理解はするものの、
この作品への非難としては、ちょっと的を外していると判断した。
あくまで、
学者であるオッペンハイマーの内面に忠実で、
偏りなく史実に公平であろうとした作品だと想像している。
時代を戻って、
枢軸国の敗色濃厚と同時に共産主義が台頭する。
すでにレーニン革命は起こり、ソビエトはナチスと対峙した。
米ソは対立する運命であるが、
幸か不幸か、核兵器の存在もあって、第二次大戦後は冷戦。
日本は、
国連も脱退し、満州国の利権をめぐり、アメリカとも敵対し孤立してゆく。
ナチスと手を組み、最後破られる不可侵条約をソビエトと結ぶ。
アメリカとの交渉決裂し、真珠湾攻撃により開戦。
原爆投下でようやく負けを認める。
まだ認めずポツダム宣言受諾に反対する勢力もそれなりに居た。
日米開戦の結果、
ナチスの敗北と同時に、毛沢東の勝利も招いた。
極東地域では、
朝鮮半島の分断、インドシナ3国の赤化まで共産主義は広がり、
憲法9条と安保条約を頂いた日本は、対共産勢力の最前線でありつづける。
同時に、戦後教育とマスコミの反権力のポーズ。華麗な掌返しは脈々と続く。
罪悪感というのは厄介な存在だと我が身を省みても思う。
資本主義勢力の王となったアメリカは、
ベトナム、キューバで勝てない。良いことがない。
例外はキューバ危機の回避くらい。
強行に臨んで、相手が譲歩したら妥協。しか成功例がない。
冷戦時代は米ソ軍拡競争を繰り広げる。
オッペンハイマーは贖罪の意味もあり、これに反対。
アメリカに軍拡でも勝つ以外に選択肢があったか?
私は疑問。
歴史的に見ても太陽政策は増長させるだけ。
話を戻すと、
冷戦時代には、スパイも暗躍。
アメリカでは、赤狩りが始まる。
「追憶」やチャップリンの映画で私は歴史を知る。
ハリウッドはリベラルで、共和党は愚かに、民主党は好意的に描かれがち。
まあ、酷い目にあってるし。
しかし中にはイーストウッド(反トランプだが)のような共和党支持者も居て、
特にロナルド・レーガンという俳優は強行派だった。
映画ではどうやら、
原爆投下よりも、マッカーシーイズム吹き荒れ、
弾圧されるオッペンハイマーにも重きを置いているらしい。
主人公を弾劾する敵役がロバート・ダウニー・Jr演じるストロース。
この人はやり過ぎが祟って、政治の表舞台から退場する。
その後、主人公の名誉回復。そこまでで時系列的にはエンドマーク。
ただし、ノーラン監督なので、時系列はわかりにくく。
オッペンハイマー視点だけカラーで、色分けされてるらしい。
「メメント」みたい。
現実世界では、
ケネディ大統領が宇宙開発に予算をつけて、ソビエトを逆転。
後にスターウォーズ計画まで発表。
ゴルバチョフ大統領とレーガン大統領の登場でベルリンの壁崩壊。
ソピエト解体により、冷戦時代は終わる。
逆張りというか補正
戦争の悲惨さ、核兵器の悲惨さ、で思考停止するのは、
日本人の生きる知恵かもしれんけど、
戦前が健全でないのと同様に、戦後も健全でない。
なぜか、合理的意思決定を日本人は嫌う。
実質被害を体験してない日本人が憤るのは、
日本人だからでなく、戦後教育の洗脳のせいではと疑う。
マッカーシーイズムはやり過ぎだったとしても、
共産党で反核の学者をわざわざ国家安全保障の中枢に参加させないよ。
ストロースひとりが悪役か?
ハリウッドだし、現在民主党政権だし、
バイアス掛かってないかな。
自民党の参議院議員の秘書が中国のスパイでも、
河野太郎大臣と再生エネ界隈が中国とズブズブと噂されても、
問題視するのは、ネットと玉木さんと音喜多さんくらい。
チャンスなのに、立憲はじめ左派の野党もマスコミも追求しない。
こんな時代に、安易に思考停止するのは、どうかと思う。
国家の機密の他国への漏洩は、国の存亡に関わる、
情報戦で負ければ勝ち目はないのだから。
お花畑な人達に席巻されていい話題じゃない。
それはともかく、
オッペンハイマーの伝記なら、彼の失脚を描くまででよくて、
ストロースが野心家であったとしても、その退場は居るか?
それに、
ストロースの個人的感情に原因を求めるのは矮小化し過ぎかと疑う。
まあ、共和党礼賛にならないよう、気を使ったと想像してしまう。
3時間は長い。せめて前後編にしてくれ。
オッペンハイマーの史実を確認中、ふと思い出したのが、
芥川龍之介「さまよえる猶太人」
この短編は、
作者である芥川龍之介の独白で始まる。
彷徨えるユダヤ人の伝説は、キリスト教国では枚挙に暇がない。
彼はゴルゴダの丘にゆく聖人を罵倒した際に、
その目を見つめられ、
行けと言うなら行かないでもないが、その代り、お前は私が帰るまで、生きて待っておれよ
と宣告され、最後の審判のその日まで、
世界を放浪しながら、神の子の帰りを待っているという。
その話を知った龍之介師匠には二つの疑問が浮かんだ。
そのユダヤ人は日本に来たのか?
なぜ彼だけが、そんな罰を受けたのか? もっと他にも沢山いるのに。
文豪はここで、
天草方面を旅行し、ザビエルに関する古文書を閲覧したという。
放浪中のユダヤ人とザビエルとの会話。
罪を罪と知るものには、総じて罰と贖いとが、ひとつに天から下るものでござる
独白は独白らしく、古文書は古文書らしく、
格調高く淀みがない。
末尾に至り、博学強記な小説家は二つの疑問が解けたと解説。
日本を訪れザビエルと会っていた。
あの人はホンモノで罪深いことを自覚した。故に罰が下る。
私は、高名な作家の無名に近い作品を知らなかった。
阿刀田高の紹介による。
多分、短編小説の名手による解説がなければ、
この作品も理解できていない。かも。
フェイクドキュメンタリー的な手法と寓意。
極めて理知的な着地。
アイデア、プロット、文章、どれも巧みだ。
(原)罪の自覚なしに罰は下らない。
罪と罰と贖罪。そして救済。
まんま、キリスト教の構造である。
オッペンハイマーの中にはどんな神が存在したのだろう。
あるいは、共産党員は神は信じないのか。
映画の中には、異教徒には分かりにくい点もあると想像するのだけど、
日本人の視点で神を解説してくれてるのは見つからない。
原爆投下について
悲惨さを訴えて、反戦、反核で終始し、
意思決定のあり方に焦点を当てない日本人の論調は危険視している。
失敗学が多数派になってそろそろよい時代だと思っている。
いずれ、
ソビエトのように中華人民共和国は解体すると信じている。
プーチンも習近平も死ぬの待ちだと眺めている。
その後どうなるか知らないけど。
日本が孫文を支援したように、
冷戦下でも敵対勢力に対する支援は行われる。
ベ平連にはKGBが資金援助したと聞いた。
日本の核武装を世界が望まなかった時代はあったし。
日本人の意思決定に世界の命運を委ねてよいかは分からない。
ただ、
広島長崎の悲惨さを訴える一色の反応は、
”騒ぐのはネトウヨだけ”と言い放つ、
祖父の代から噂のある為政者の発言を聞くに、
もっと考えるべきこと、今あるとは思う。
トルーマン大統領の意思決定について、
早期終結論とは関係なく、
東京大空襲も、原爆投下も無差別殺人で戦争犯罪でいいでしょ。
行為自体は大量虐殺で言い訳はいらない。
裁くのが勝者だというだけ。
が、早期終結論は全否定しない。
敗色濃厚となると、神風突撃を行い、
竹槍で爆撃機を落とすと意気込む人達だ。
本土決戦、一億玉砕と叫ぶ。
「日本の一番長い日」で描かれるように、
負けを認めることは困難を極めた。
私はそんな非合理な集団を戦後でも見てきた。
もしアメリカが通常兵器だけで戦ったとしたら、
苛烈に空爆を繰り返しながら、鹿児島から上陸。
昭和天皇を包囲するまで終わらない。
本土でそれまで日本が徹底抗戦したら、
ベトナムやイラクと同じ泥沼。
アメリカは沖縄でも硫黄島でも既に相当な被害を出している。
この戦争が長期化すれば、
ソビエトは不可侵条約を破棄して、
朝鮮半島や北海道は取るだろう。
北関東あたりが、38度線になるかもしれない。
のっぴきならない状況になってから、どちらかが核兵器を使うかもしれない。
どっちがより悲惨だか、私は想像がつかない。
日本の意思決定を問わずに、原爆の悲惨さだけを訴える気にはならない。
満州の利権の最低限の確保で譲歩し、
中国からも撤退して、アメリカと講和する。
ドイツとは手を組まない。
だったらそもそも、とは思う。
結果論だが、
イギリスの子分からアメリカの子分へ、
被害なく、ずる賢く立ち回る世界線はあったかな。
ミッドウェイで負けたらもう負けだし。
負けを認めるタイミングは幾らでも有ったし。
一方しかし、
流石に、いきなり原爆の前に、
無条件降伏しなければ、原爆落とすと最後通牒すべきだったとは思う。
これは、トルーマン大統領に進言する人もいて、当時も論争になったらしい。
しかし、真珠湾攻撃はどうなんだと、どの口が言うと、
反論されたら、死んだ人の数くらいしか反駁は思いつかない。
事前に知ってたかどうかは関係ない。
とまあ、二元論的な結論は出せないのだが、
とりあえず日本人の無邪気さは警戒する。
日本人は合理を憎んでいる。
私にも、この作品の疑問点は二つあって、
・ノーマンらしい技工は効果を発揮しているのか?
私は、「怪物」も「アフターサン」好まない。
技工のための技工に感動はない。
・中立といいながら民主党寄りじゃないか?
中の人であるロバート・ダウニー・Jrは無視したとか拘るかもしないが、
敵役の動機を矮小化してないか?
だからストロースが追放されるまで描いたのでは?
面倒くさいのだが、確かめようとは思っている。