「オッドタクシー」制作陣のオリジナルアニメで、評判も良く。
観逃すこと無いだろうと、後回しにしていた。
どうも雲行き怪しいので、慌てて予約。
(たぶん、ネタバレしちゃいます)
《 開演 》
うーん、、
オリジナルかつ敢えて地味という、
挑戦的なアニメ製作の企みを讃えたいのは山々、
なんだけど。。
物語が強引過ぎてムリ。
褒めたいんだけどなぁ。。。ちょっと残念だった。
謎解きと、
獄中で残りの人生を過ごすというドラマが、
関係無いんだよ。
受刑者ものは、
大人しく刑務所で、”理由も明かさず、その日を待つ”
という作劇が肝腎。
塀の内と外で、時間の経過が違うことが主眼で。
謎解きにせよ、ヒューマン・ドラマにせよ、
その日を待っている理由が、話の心臓でないとね。
ぱっと思い浮かぶ、
有名な例↓なら、小説でも、映画でも、TVドラマでも善き。
(一旦、テキトーなツッコミは無視するとして)
時間が重要な意味を持つよう、呼吸みたいに当然と設計されている。
本作の謎解きは、その条件を満たさない。不成立。
手紙が届き、暗号が解読されたら、
即座に万事解決してしまう。待つ意味が無い。
更に、
非現実的な設定が追加されている。
数十年も住宅地に、登記の無い土地が残ってるのかよ。
その上、
あれで所有権は主張できるの?
刑務所に居て、”公然と占有した”とは、(後述)
笑ってしまう。
できるだけ早急に掘らんと。
いずれ、基礎工事で掘り返されちゃうよ。
花が喋るからと無理に、こじつけないで、
主人公の寿命を待たずに、暗号解読せんと。
つーか、
危ない橋渡ってまで、カネが要るのか?
足が着かずに、その旧札は使えるのか?
終劇まぎわに、新たな謎が提示されてしまう。
前作↓を見習ってよ。
動物が擬人化されたキャラと、子猫だけキャットのママ。
そこに謎の根幹が有った。
比べて本作は、構造が脆弱。
本作の謎解きなら本来、
ルパンと峰不二子のようなコンビで成立する話。
(銭形役の堤のアニキは、数十年後に部屋探すようなマヌケでも構わんが)
カネの受取り側に、打算が働いている。
女は善人でも、素朴でもない。
その前提で、キャラが造形されてないと、
観客はカタルシスを得られない。
感動へ着地出来ず、欠陥となる。
瑕疵は多々あれど、最大の問題は、
ヒロインに全く共感できないこと。
残りの人生と引き換えに、息子助けて貰って、
それで充分じゃないのか。まだ愛もカネも要るのか。。
カネが手に入れば一発逆転か?
それが愛の証明なのか?
絵でこじつける必要あんのか?
刑期の時間稼ぎの犠牲で、丈夫な心臓の生還。
外野フライ成功でいいだろ。
確実に1点もぎ取って、完封勝利だよ。
相当にドライでクレバーな女性。
じゃないと息子の命ファーストな、あの言動にならんよ。
無理やり感傷に浸るなよ。
あんな女に惚れる男にも、共感出来ない。純愛の相手は選べよ。
ミステリは難しい。不自然さを消すのが難しい。
謎解き中心なら、感動より骨子の成立を優先せねばなるまい。
逆に、
地味な感動ものなら、謎解き要素は要らないかな。

第2巻↑第1話の「黒の牧歌」を思い出す。
(ビッコミで各話ごと別に、読めると知った)
非合理的な理由でも、心情を察することが出来る。
キャラ造形で同情させ、
受刑者が自らが語る、時効を成立させた想いに、
読者は、なるほどと納得させられてしまう。
それが感動の肝。
読み返してみると、やたら刑務所の話が多い。
限られた枚数で、
時間の経過を、如何に演出するか。腕の魅せ処だった。
昭和的な話ばかりで、
今の読者に共感されるかは、担保できないけれど、
情に訴える、
プロット、キャラ造形、テリング、演出、に絵柄。
完成度高いから、長く続いた。
「黒の牧歌」は、

最初のプレゼンで謎が提示される。結論から先に言う。
見晴らしの良い景色。
淀み無く、回想へ向かう。
事件のあらましが展開され、人物にも理解が及ぶ。
現在の場面は室内だけ、戻ってストーリーは進行。
着地は、
タネ明かしからの、余韻を残す決めショット。
フォーマットは、ワンパターンでいいんだよ。
どんでん返しは、重要じゃない。
最後まで、感情を連れて行ってくれるかどうか。
本作は、残念ながら。。
無理やり、感動させようとしてるけど、
獄中から、カネの隠し場所を教えるというミステリと、
人生の残り時間を賭け、幼い命を救う人情噺が、
最後まで並行に走る。
時間の経過が、ぜんぜん交わって来ない。
小林薫主演なら、アニメである必然性がとか、
作画より先に、セリフを録音する”プレスコ”の有効性とか、
ウェザナイのチョイスの妥当性とか、
そんなことは些細で、物語が致命的。
謎解きと人間ドラマが水と油で、方眼が歪んでる。
無理やり嵌めたストーリーが辛い。
本作は、
謎解きが強引で、人情は雑。
せめて、どちらかは上手に魅せて欲しい。
あ、思い出した。
謎が主軸で、サプライズを効果的に魅せる、
逆算の名作↓も在り、

語りは、やっぱり真骨頂で、
プレゼンから見事。
ターミナルのロータリィは、格好の待ち合わせ場所。
日曜の昼前、通りの喫茶店は、
窓越しから、待ち人の到着を見つける特等席がある。
お昼時は混んできて相席。饒舌な男が話しかける。
文章は、男の語りにすんなりと移行して、
三島由紀夫、芥川龍之介、「ゴトーを待ちながら」と引用、
どうやら、”待つ身” がテーマらしい。
そこから、男の身の上話。描写が巧み。
男は人生で3度、本気で女を待つ。
ただし、3度目だけ趣旨が違う。
タネ明かしを語り、席を立つ男でエンドマーク。
何もせず、ただ待ってる設定だからこそ、
時の経過を有効に使う。
オシャレかつ、無駄も矛盾も無く上手い。
ああ、褒めたいのに。。
お話以外は、隙が無いのに。
途中から、強引で失速してしまう。
気持ちが保たない。
例えば、むしろ、
終身を覚悟した主人公が、アニキの弱みを握っていて、
その秘匿を条件に、母子の安寧を約束させる。
ブローカに払うと、現金は残らなかったでいい。
細かい計算は要らない。命が全て。
堤のアニキは目の上のタンコブを消して、組織での出世が大事。
(アニキより、チャイナマフィアを信用する根拠も弱い)
毎月、母子の現在の写真が刑務所に郵送され、
主人公は年に一度、年賀状を女に送るだけ。
小林薫は死期を悟ると、暗号に気づけるよう手紙で促す。
財産も、旧札の現ナマじゃなく、
20年掛けて得た権利(後述)が彼女に渡る。だったら良かったのに。
(ポテンヒットの一角に立つ自販機の契約みたいな)
女の老後の足しになれば、充分だけど、
時間を味方にするキャピタルゲイン付きなら尚可。
時の経過に意味を持たせることが出来る。
着地は、
夏の夜に、手紙で種明かしを女は知る。
男は鉄格子越しに、遠くの花火を見る。
ホウセンカも同じく弾けて、種は窓から土にホームイン。
いのちは繋がり。主演はコト切れゲームセット。
(御冥福をお祈りします。晩年は若手の育成に勉めたのか)
とか、
時間の経過を有効に使ってよ、
所有権に言及するなら回収してよ。
本作のプロットは、観る者の疑問に耐える構造に成っていない。
作り手は計算をミスっている。
地味なのだから、よほど精密であれ。
オシャレは健在で、役者の使い方は上手いけど、それだけだった。
参考文献 時効取得とは 不動産名義変更手続センターより
例えば、他人の建物を自分の物であると信じて、
そこに住み続けた場合、一定の要件を満たせば、
その建物の所有権を取得することができます。
占有者が時効により
その建物の所有権を取得すると、
真実の所有者はその建物の所有権を失います。
日本では、居住者の権利は強い。
家賃未納の入居者の競売物件などで、難しい問題になるケースも。
時効取得の要件は、次のとおりです(民法162条)。
1.所有の意思があること
2.平穏かつ公然と占有したこと
3.一定期間占有したこと
ま、なんにせよ、
名前を書いて放置しただけで占有はムリよ。
時効取得やる気なら、設定を活かしてよ。
約束は守って、歌わんと。ファンを裏切っちゃいかん。
2025.10.24 19:00現在
ああ、買うべきなのに、買えない。
そんな気持ちにも成れない。
結局何もせず、来週を待つ。
