観たい映画が観れてよかったです。
アート系というより、純文学系でした。
大衆娯楽で、ベタなご都合にうんざりする時間を過ごしたくなかった。
原作は未読で、映画鑑賞後に読みました。先に観て正解。
高い評価を受けていることくらいしか予備知識無し。
かなり、原作に忠実な映画化でしたね。
コメディ味は原作から引いて、テーマどおり心の奥底にあるものに集中。
説明は吹き出し多くなってしまうところ、映画は上手く、
必要最低限のセリフで処理してました。
常に風景に溶け込む、今泉監督らしい丹精な画作りのお陰で、
快適な時間を2時間半過ごせました。
(大衆娯楽だと分かりやすい説明のズームとかキツイ)
役者さん達の演技が凄いので、原作を上回る表現と観ました。
なるほど、この人ならではのキャスティングだと唸るのですが、
私は中でも井浦新さんの演技に圧倒されました。
原作より抑制が効いて。奥底に抱えたものを想像させる。
ヒリヒリとした芝居に時間を忘れました。
原作同様のストーリーは、謎はあるけど、謎解きは無くて、
映画として、これで興味持続させるのは、
脚本も演出も相当ハイセンスでないと。
流石の今泉力哉と素晴らしい時間を過ごせました。
9月は、
イ・チャンドン「オアシス」、今泉力哉「街の上で」と続けて鑑賞。
リバイバル上映を堪能していました。
「街の上で」同様に、
風景に溶け込ませながら、その街で暮らす人々を描くの秀逸で、
監督ならではの資質。原作以上の表現力を与える。
一方、本作では会話の面白さによるコメディ要素を封印。
完璧なキャストでセリフや顔芸に頼らない芝居。
今までとも一味違う、豪華な余白の使い方でしたね。
江口のりこ、康すおんのお二人がいっとき軽さを与えてくれる程度。
リリーさんは余人を持って代えがたい、はまり役。
瑛太さんは難しい役どころにリアリティを感じさせる。
これなら騙されると納得感あり、
劇中でも、多分真実は何一つ語ってないと想像させる。
反社に追われてる事情でもあるんだろうと。
真木よう子さんは、
真摯で無骨なおばさんだけど、時々妖艶。
原作を超えた実体感。
ちょっと数奇な運命に翻弄されるゆらぎを熱演でした。
そして、井浦新さんの喪失感の体現に圧倒されてましたよ。
イ・チャンドン味のある着地を足してました。
韓国料理のパンチのある味付けでなく、
ぬか漬けにしたら、本作かと。
原作に足した判断も正解と思います。
今泉監督の風貌からしてですが、
キリスト教的なテイスト。
それでも人は、受難を越えて、愛によって生きてゆく。
その静けさに感動するものなのでしょうね。
なんか賞でも取ってくんないと、
興行的にはわかんないですけど、
TVでも配信でもいいベタとは一線を画す。映画らしい映画。
かと言って、
「怪物」「アフターサン」のようなテクニックにも走らない。
ちゃんと引き算できてる映画。
東京に居て観たい映画を観ることができた至福。
ちょっとした奇跡に感謝しました。