前回の予定通り、観てきました。スクリーンで観るべき作品です。
演者も全員素晴らしいですが、撮影スタッフの気合が凄いです。
”モノクロで”と監督が告げたことで、職人魂に火を点けた。
照明、カメラはもとより、消え物は飯島さんなので当然としても、
衣装に舌を巻きました。
現代のお話で、古臭くないのに昭和みたい。
瀧内公美がときどき原節子に見えます。完全にヤりにいってます。
モノクロームの中、美しく映えるように、徹底的に計算されてます。
次に小道具。
古いガラクタは古く、しかし家電やシンクは新しい。
洗濯機、蛇口、コンロはIH。パソコンはマック。最新でオシャレ。
観客に時代背景を示しつつ。生活の質にこだわる主人公と分かる。
自主映画なみの監督の熱量で、スタッフも良く応えワンチーム。
グランプリも納得の画作り。
個人的には、それだけで元を取った気になりました。
さらに、
映画として面白く成立させる追加も、最適解かと思いました。
吉田監督、筒井康隆が大好きなんでしょうね。
著者がサービス精神発揮して、
テーマ性を保ちつつエンタメに寄せたら、
こんな風に物語を動かしたんじゃないかなと、想像されます。
本作は、
「PERFECT DAYS」になぞらえる向きも多いのですが、
脱臭されたファンタジーではなく、老いのリアルに迫ろうとします。
かといって認知症の妄想ではなく、正常の生と性の足掻きを描きます。
BGMが邪魔せず、人間の業を突き放すあたり、
ベンダースというよりは、(さけねこさん指摘の通り)
ミヒャエル・ハネケにテイストは近いのではないでしょうか。
ま、ともかくも、
岩波文庫をラノベと勘違いする人は、まず居ないように、
白黒の見栄えのお陰で、純粋な娯楽作と間違って入る観客少なそう、
興行的にはダメージでも、不幸の総量が少なくて良かった。
で、ここからは、
原作↓既読が前提で、映画化の工夫について考えてみたい。
前回のおさらい。
・日本文学クラシック私小説な筆致。主人公視点三人称語りで写実的。
・筒井康隆らしい悪ノリやドタバタは抑え、真面目な(純)文学。
・途中から妄想入り混じり、遊行期の老いのジタバタを描く。
・”老いるショッカー”でないと、共感出来ないかも。
・「オール・ザット・ジャズ」↓の主人公が知的、上品、几帳面のバージョン。
小説の中でも、この映画について語られる。
小説が日本伝統の純文学のルックなので、
映画は小津安二郎っぽい建付けにしている。
というのは予告で想像出来た。
でもでも、
そのまま映画化しては単調で、2時間保つまい。
アレンジを加えつつ、小説を上手に映画化する、ことに定評のある監督。
どう工夫したのかな?
・物語を動かす。エピソードを追加、またはアレンジ
”老いるショッカー”でない若者でも飽きさせない。だけでなく、
主人公と他のキャラの関係性が、より象徴的になるように変更し、
不条理のテイストは決して損なわない。
筒井康隆がエンタメに寄せたらこうするだろう。と想像される。
・もう少しだけ具体的に、しかし不条理劇で在り続ける
”敵”は、より死神の顔つきを見せてました。
しかし、”これが正解です”と示すのは野暮。作品は戦後教育じゃない。
どこから妄想か、考察を楽しむようにも意図しない。「Joker」とは違う。
志高い匙加減。岩波文庫はラノベじゃない。
・言葉に頼らず、文章の代わりに役者の表情で表現
小説は文章で心理描写を行う。
独白やナレーションで同じことは映画でも可能。
しかし本作、劇伴での誘導も含め、聴覚による説明は抑制される。
代わりに無言の演技で演出してきます。
わざわざ映画化する価値がここにあり、満足します。
同じく、河合優実の技量を登用する映画「ルックバック」をアマプラで観てたので、
どうしても比べてしまいました。現代の最適解はそっちかとも。
承認欲求を爆発させ雨の中で踊る。など、
極めて映画的でオシャレな演出するのに、
感情はセリフで説明してしまう。
(そもそも罪悪感など抱かなくてよいのだけど)
不整合に、安いことするんだなぁ。
オシャレでクオリティ高い作画は間違いないけれど、
大変残念でした。世間の評価とはうらはらに。
スクリーンと液晶ディスプレイの比較はハンデ戦で、
不公平な感想なのは分かってる。だけど、
一貫性の低さは没入感を損なってしまう。
原作に追加されたオチは蛇足との指摘も、
理解はするものの、そこは無理に解釈する必要無いんじゃないの。
素直に、夏から春までの最期の1年を追ったということで。
それよりか、
自らを律し、林住期は上手く移行。
難敵、承認欲求とも折り合い着けたのに。
遊行期の無邪気は難しい。
先祖代々の家が離さない。自意識よりも高いハードル。
折角、あれだけ画を支えてくれた家屋だもの。
意味をもう一つ乗せたって、いいじゃない。
わたくしは、
密閉された暗闇に閉じ込められ、
不条理な空気の中、藻掻いても解放されない。
監督の情熱に、役者もスタッフも全力で応えるから、
観る者の脳は占有される。
そこに震えます。
メジャーな吉田大八なのに、
パーソナルで趣味性思いっきり。だけど抑制も効いた映画。
そんな創作活動が出来て、自国の映画祭でグランプリ。
奇蹟ってあるんだなぁと。
商業的にどれだけ評価されるか分かんないけど、
次の作品撮れるくらいには、潤ってくれるといいな。
豆から挽いて、淹れた珈琲のよう。
インスタントで香り立つものも今はあるけれど、
ゆっくり味わいたい。
折角の老後、時間はたっぷりあるのだから。
筒井康隆からは、いつもジャズが聴こえる。
2025.01.23 11:30現在
20MAを突き抜けて来たけれど、まだレンジ。
日銀利上げ観測もあり、ドル円は比較的推移するけど、
トランプ就任後も、株は大きな動きとは言えない。