火曜日はお彼岸で祝日とは知らず、なら映画でも。
見逃さない方が幸せで、体に優しい作品を探した。
ここんとこ、
話題作「8番出口」「ひゃくえむ。」かつ高カロリーな作品が続いて、残暑バテ。
「レゼ編」はロングランだろうから、その前に、ほっこりしよう。と予約。
当然小さいスクリーンで、ほぼ中央を選ぶ。105分は大丈夫。
予め、世間の評は確認しておいた。(原作は未読のまま)
え、工場↓は映さないのか。スクリーンで見たかったなぁ。
ああそうか、
ご当地映画のような地元全面協力ではないのか。
かといって、
このキャスティングでは、自主制作のはずもなく、、
疑問で、
製作のいきさつ、資本関係はyoutubeで予習。(後述)
ベンチャー起業を応援したい。という想いを持つ、ほぼ個人かつ異業種から、
コギトワークス社に映画製作のオファーが来たのか。
おー、
製作委員会方式でないのは当然としても、
小規模でも珍しいケースだ。
なおさら、邪な思惑は混じらず、
善良な気持に浸れる作品であることは、堅そう。
なるほど、
小規模だけど、ご当地映画、自主映画とも一線を画す作品。
TV畑での経験と技術も感じる。
ストーリーは、想像通りの安心設計。
分かりやすくて疲れない。プレゼンは抜群に上手い。(後述)
素直に、
伊藤沙莉はじめ、豪華な役者さん達の名演を愛でました。
日焼けた顔の”おばあ”役は、
無名の名脇役を発掘したのかと思ったら、高畑淳子でビックリ。
演技、映像、音楽とも想像通りで満足なのですが、
脚本、編集、主題歌には、若干の不満が残りました。
ロケは素晴らしい。
南大東島の名所はあまり映りませんが、
日本の映画なので、食べ物はちゃんと映します。
名物の大東そば、大東寿司もちゃんとブツを撮る。
そういば、
南大東島の位置も、私は知らない。
復習したら、大東諸島は沖縄本島の東側。
明治時代に八丈島からの開拓団が入植するまでは、全島が無人島であった。
即ち、現在沖縄県に属す島でありながら、琉球王国には属していたことはなく、
明治以前に琉球文化が伝えられることもなかった。
砂糖の歴史も過酷と知る。
沖縄に行っても、
わざわざコミュータで飛ぼうと、興味惹かれる事も無かった。
大抵は本島で事足りるし、もともと出不精なタチで、
ギリのギリまで国際通りのゲストハウスで、まったりしガチだった。
と、沖縄諸島にも、奄美諸島にも滞在した、当時を懐かしく思い出した。
それはさておき、
豆腐作りも食器も、美術全般に素晴らしい。
衣装も含め、映像の色味は原色が映える。
丁度いい満足。
ほっこりと劇場を後にしました。
もっと詳細に語りたい、以下のこと。
1.映画製作とラム酒の起業が重なる
2.酒造りプロジェクトXにしない
3.プレゼンが主役
4.素直な演技とは
5.沖縄フィルムオフィス
6.映画として割り切ってよ。脚本と編集の不満
7.主題歌を劇中で歌わせたいのだろうけど
ネタバレ若干有り。
どうしても一部、話の展開に触れます。
(まんまのストーリーなので、影響無いと思いますが、、)
1.映画製作とラム酒の起業が重なる
「夏子の酒」の蔵元と杜氏に似た話で、
ラム酒では、醸造家が杜氏にあたり、酒を決める。
主人公は、伝説の醸造家・瀬那覇仁裕に白羽の矢を立てる。
演じる滝藤賢一は相変わらず手練れで、
ホントに瀬那覇さんは、こんな人だろうと思わせる。
劇中、
伊藤沙莉が、滝藤賢一を口説く手紙を送る。
心動かされ、参画することになる。
監督の芳賀薫は、
脚本初稿の段階から、主役は伊藤沙莉しか居ないとイメージし、
天才女優に宛て、出演依頼の手紙をしたためる。
見事、オファーが通ったという。
それから先、キャスティングで難航することは無かった。
彼女と共演出来るならと、快諾だったという。
カンチャンずっぽし、パーフェクトな配役と相成った。
映画製作では、
役者に、
オファーをプレゼン(脚本を渡す)して、
参加してもらう。
本作のテーマも、
プレゼンを通して、
各ステークホルダーに、
どう味方になって貰えるか。
メンバーを集めて、
同じ志の元、モノづくりに進む。
誠実な仕事。
物語自体に説得力を与える。
悪い例だと、
優秀というキャラ設定なのに言動がマヌケ、
世界征服を企むはずが小悪党の器。
など、作り手は自分の能力以上は描けない。
本作は良い例。
小さくても誠実で高品質な仕事。
現代のおとぎ話に説得力を与える。
2.酒造りプロジェクトXにしない
当初から、出資元の意向も反映されている様で、
応援も求める人が、
プレゼンによって、
応援を勝ち取る。
という物語に成っている。
”工”より”商”の方が令和的ですね。
それでも、
プロジェクトXにした方が、日本人の気質にウケそう。
なのに、
ちっちゃい伊藤沙莉がどう応援されるか、に焦点を当てる。
工場の用地取得や建設は全く描かれず、
ラム酒開発は、滝藤賢一に任せる。
各所の応援を取り付けた後は、一気にラム酒完成お披露目会のエピローグ。
随分と斬新なことをやってる。
対立軸はさほど。
ビジネスライクな東京組が悪役。(安定の眞島秀和)
しかし、
滝藤賢一を味方に出来れば、口説き落とす必要は無い。
戦わずして勝つ、これぞ上策。
ドラマの中心には置かない。
クライマックスは、
プレゼンで反対を味方に変える。オセロのように。
観客は、ヒロインのピュアな魅力の賜物と錯覚してしまうが、
実は物語は、プレゼンとラム酒の力で、反対派は改心する。
因みに、
奄美諸島では、黒糖焼酎が焼酎の税率で、生産が許可されるが、
沖縄県は適応外で、泡盛はタイ米が原料。
歴史的にも理不尽が有り、
”沖縄でサトウキビの酒を作る” と言われたら、
沖縄の人なら応援したくなるのは当然とも思える。
何にせよ、
一見、NHK朝ドラっぽい行動派のヒロインなのに、
テーマは見慣れない作り。実は随分とビジネス寄りだ。
3.プレゼンが主役
本作のプレゼンは見事である。
最初から淀み無く、設定と人物を紹介。
本物の豆腐作りから、
職場の様子を映し、
主人公は社内ベンチャー制度を知る。
観客はスラスラと理解。
肝となるプレゼンの場面も大変分かりやすい。
一人当たりの飲酒量でもなく、飲酒運転の数でもなく、
居酒屋の総数というのがイメージ良い。
南大東島の村民を説得するシーンでは、
”島に新たな産業を”
と言っても、島の若者が主体なら応援もするが、
本島のビジネスではね。懐疑的になってしまう。
補助金頼みで立ち上げても、最後の尻拭いは地元の自治体。ギガバンツがよぎる。
老人達は痛い目を見た経験も有るのかもしれない。
そこで、
サトウキビジュースを発酵させる製法(アグリコール)を実現するには、
南大東島しかないと力説し、ラム酒が投入され、
一飲に如かず、
村の長老もラム酒に感心し、遂に説得される。
沖電(劇中は架空の企業)幹部への最終プレゼンでは、
もっとオシャレに、モヒートを飲ませ、
沖縄でサトウキビの酒が作られていない現状を訴える。
プレゼンのプレゼンも上手い。
観客にも伝わりやすく説明しつつ、
物語はピンチに陥り、ちょっとしたサプライズで逆転。
実物を飲ますことで、ビジョンが共有される。
これが沖縄産で飲めるならと、応援する人がハッピーに成れる。
澤円直伝、人をハッピーにさせるプレゼンの秘訣
誰がどういうふうにハッピーになるのかって。
漠然とするんじゃなくて、それを具体的にしていく。
これが大事なんですね。
ビジョンというのは、プレゼンテーションを正しい方向性に導いてくれる、北極星にあります。
ですのでここを設定しないと、どこにも行けません。これをまず言語化してください。
目的は、
要望を通すことか、
流暢に披露することなのか、
成果が疑問なテクニックを教えるコンテンツは多く、
要諦を語る人は稀である。
本作は、有能な設定を有能に描けている。
4.素直な演技とは
元が実話だけに、本当にこんな人なんだろうなと、実存を感じさせる。
名優たちの共演を鑑賞しながら、思い出した。
レジェンド声優曰く、
今は、素直な演技が出来ることは必須。
なるほど、確かに。
伊藤沙莉は、最初の本読みで完璧なウチナーグチを披露しつつ、
”まだ感情は何も入れていません” と注釈を付けた。
恐ろしい人だ。
自分のクセを出さず、無色透明に脚本通り演じる。
それから、演出の要望に応える。
いい役者さんて、こういうことなんだと、満足しておりました。
5.沖縄フィルムオフィス
地域のPRを目的として、自治体からの補助金が出る作品を、
ここでは、ご当地映画と限定したい。
本作は、南大東島のご当地映画ではなく、作品ありき。
沖縄のフィルム・コミッション機関である沖縄フィルムオフィスを利用している。
実物の工場について、
撮影許可が下りなかったのか、
作り手が不要と判断したのか、
どちらなのか、真相は分からない。
作品のテーマからすると、無くても問題無いかとも思う。
心を動かすプレゼンで企画が通るまでを描いて、
実務はまた別の問題。それも描いては3時間の大作になってしまう。
取捨選択は好判断だったと思う。
ロケで、なにより拍手したいのは、豆腐作りのリアル。
豆腐屋さんは、本島南端の糸満市に実在。
ここからオープニングシーケンスを始められたことが、
本作の品質に大きく貢献。
有ると無いでは、観客に伝わるリアリティが全く違うだろう。
芳賀監督と監督を推した関Pと、(おそらく)鳥越コーディネータの勝利。
ちゃんと本物なんだと、
本作が始まってすぐ、私は安心した。
役者陣とロケーション。両方とも良い素材ありきで、純度高く妥協無い製造。
作品に本物の説得力が有る。その満足は大きかった。
6.映画として割り切ってよ。脚本と編集の不満
とはいえ、不満も。
脚本は、原作を改変してでも、
豆腐屋の跡継ぎは、他に居る設定の方が良くないか。
”応援する”視点がメインのドラマで、
新規事業より、家業どうすんだよ。
絶やすの勿体無いから、そっちに注力しろよ。
と思ってしまう。
これは大きな鑑賞時のノイズだった。
安心して観ていられる設定にしといてよ。
しかも、主人公の設定は、
実話に忠実という訳でもなく、小説の創作。
実話→小説が創作なら、小説→映画の改変も問題無いじゃん。
年少な男の子を家庭に追加するとか。
より応援され易い設定で、観客を誘導してよ。
後継者問題でお涙頂戴やる必要は無いよ。
終盤、編集がクドい。
プレゼンテーションではなく、映画なのだから、
最後は、分かりやすさより余韻を優先してよ。
エンドロール含め、やり過ぎ。
出来立てのラム酒を映して、サトウキビ畑の風景で終わる。
それで充分。
もっと勇気と覚悟を持って着地して欲しい。
7.主題歌を劇中で歌わせたいのだろうけど
ざわわ繋がりで直太朗ってことか。
「あの世でね」って坂本九繋がりってこと?
うーん、
ラッシュより前に、楽曲が欲しいと依頼されたらしい。
作り手はおそらく、主題歌を劇中で歌わせたかったのだろう。
それは悪手だったかな。
想像するに、
直太朗に発注した時点の脚本では、
祖母は亡くなるストーリーだったのではないか?
今となっては、
歌詞と本作のテーマが全く合っていない。
しかも、ヨナ抜き音階で沖縄味が無い。琉球音階じゃなく。
こういうの↓で、いいんだよ。
余談ですが、
ロバート秋山曰く、
国際通りのテーマソングに、と企画もされたが、
著作権の壁に阻まれた。
テレビでもラジオでも流れない。
何にせよ、
それなら、いっそ割り切っていい。
直太朗に発注するにしても、
通常と同じ段階で作って貰えば充分だった。
音楽自体は悪くないのに、
変なタイミングで主題歌を要求したことだけは、
評価出来ない。
ま、不満はそれくらい。
総じて、小さくて良品の満足が、大きく上回る。
”沖縄の綺麗な心”
を描くのは、
ある意味テンプレートかもしれないが、
制作のいきさつ、テーマ、がちょっと異質。
かつ、
その異質が成功している。
タイミング逃さず、ハッピーな体験だった。
キューバの事など馴染無く、80s’のヒットチャートに接す。
カストロ政権から敵視されているなどと知る由もなく。
由来も分からず、奄美で黒糖焼酎飲んでいた如し。
2025.09.26 11:30現在
今週は横ばい基調。
三角にも見え、まだ上昇も有り得るのかな。
MACDはそろそろデッドクロスしそうだけど、、
大きく動くのは雇用統計後と、ちょっと様子見。