イラク映画は未体験で、
トルコやイランなら思い浮かんでも、
アラブの監督は想像つかない。
規制はもっと厳しいのか、
監禁、逮捕どころでは済まない、
外国へ持ち出しどころか、制作すら出来ない。
政治的にも、宗教的にも、自由な主張は大変。
勝手にそう、思い込んでいる。
パレスチナ、シリアが舞台の作品は例外的で、非アラブの監督。
本作は、
アメリカ資本がガッツリ製作に参入しているものの、
イラク人による監督脚本で、本年度カンヌ新人賞。
ハサン・ハーディ監督の子供時代の実体験に基づくという。
製作上、まだまだ困難多いと察せられるが、
予告編や世間の評判の限りでは、品質に心配はない。だろう。
米軍の完全撤退が迫る今、
イラク駐留のアメリカ軍 9月末までに撤退完了へ イラク首相https://t.co/BGgV23ttcC #nhk_news
— NHKニュース (@nhk_news) July 15, 2026
湾岸戦争当時の市井を描いた作品を観る機会も、有り難し。
先入観が過ぎてもと、予習せず。
分からないことは復習で補うことにして、ヒューマックスへ。
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本日公開!
\『#大統領のケーキ』
独裁政権下のイラクで、大統領の誕生日ケーキ係に選ばれた9歳少女が材料集めに奔走する姿を描いた物語。池袋HUMAXシネマズでお楽しみください!
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松竹配給のお陰で、公開館数は若干多め。
《 開演 》
※ストーリー直接には触れませんが、
大事な点、ネタバレします。
大変見応えある良作で、
国情を鑑みての高下駄でなく、実力のカンヌ新人賞。
間に合った予算と、
有能な撮影スタッフによるイラクの様々に美しい風景。
映像を堪能しつつ、
かつ
優れた人間ドラマで、観客に暇を与えません。
が、
例えば、
こんな↓イラン映画のような、
子供が主役で、ほのぼのと泣ける物語を期待していると、
まんまと裏切られます。
むしろ鬼畜。
最後までツラい105分。
ときどき小2の頃を、私は思い出しましたね。
特に酷い担任でした。
ほんと大人は誰も、信用できません。
実体験が無ければ、この脚本は書けまい。
アートな映画祭で賞を獲るべき、胸糞な作品。
カタルシスは皆無。
フィクションに逃げず、世知辛い現実を直視せよと終幕。
物語は存在すれど、
起承転結のストーリーに則り、
子ども視点で、当時の実情を赤裸々に描くことが主眼のため、
物語の消費を望む日本の観客には、お奨め出来ません。
逆に、
リアル(写実)志向に共感が有れば、
そんな迎合は出来ないと、
突っぱねるストロングスタイルな新人監督。
それではキャラクターを裏切ることになります。
自分自身の記憶も、そして私と同じ時代を生きた人々の経験も、
裏切ることになる。
だから、たとえ重い結末になったとしても、
自分にとって真実であるラストを選ぶ必要がありました。
その覚悟に心打たれます。
では感想など、つらつらと。
0.本作のあらまし
1.撮影の見事、監督の才能
2.イラクの実情について知りうること
3.”独裁だから” も思想教育に見えて(若干ネタバレ)
4.そんな時代も、と観て良いか
0.本作のあらまし
鑑賞後に、内情を知りました。
・監督の実体験に基づく
事実はフィクションより恐ろしく、その同級生は材料を集められず、
ケーキを贈呈できなかったために、
学校から退学させられただけでなく、
サダム・フセインの少年兵として徴用されたそうだ。
・本作製作の経緯
運命の出会いとなったプロデューサーの
リア・チェン・ベイカーと意気投合し、短編映画を共に作り、
ハサン監督のアイディアを長編の脚本にしてはと
リアが提案したことでこの企画が動き始める。
そしてサンダンス・ラボに参加し、
脚本、監督、プロデュース、カタリストという
サンダンスの中での資金集めを手助けするフォーラムに助けられ、
制作総指揮にエリック・ロスが参加。
リスクがあると言われたものの、イラクというロケ地で撮ること、
役者は全員素人、ほとんどリハーサルはなしという、
デビュー映画製作で行ってはならない規則を全て破るような形で決行した。
想像より、ずっとドラマチックな現実で、
重苦しい鑑賞後感にも、改めて納得。
戦後イラクではまだ、政治的にも、経済的にも制限は大きいはず。
鑑賞中も、
本作の実現自体が、奇跡だと観てました。
アメリカ政府の政策で、作った映画なら、
空爆や経済制裁による被害、
特に、子ども視点からの実際は描かないでしょう。
監督の思いと、それに手を差し伸べたサンダンスに拍手。
1.撮影の見事、監督の才能
何と言っても、最初に撮影を褒めたい。
【単独インタビュー】『大統領のケーキ』ハサン・ハーディ監督

この映画にとって、その映像美が非常に重要だったからです。
この映画には寓話のようなトーンがあり、
そのトーンを視覚的に伝えたかった。
あの地域を映画の舞台にすることは、視覚的にディズニーランドのような、
寓話的な感覚をもたらすために非常に重要だと感じました。
居住地の湿地帯、砂漠の道中、華やかな市街と、
アメリカ資本とは言え、
よくぞ、これだけロケーションに拘ったものだと驚きました。
「できるだけ少ない美術セットで1990年代に見える場所をどう見つけるか」ということ。
そのため、条件に合う建物や通りを探して、
本当に膨大なロケハンを行いました。
撮影はバグダッドで行いましたが、実際の道路を封鎖し、
人々の通行も制限しなければなりませんでした。
市街地はバグダッドだと思うのですが、
モスクはじめ、建造物は全く知ることなく、
スクリーンの上の見事な画を、ただ眺めておりました。
画面の手前で語られていることと、
背景が語っていることが異なる構図が好きです。
そのコントラストが映像をより豊かにしてくれると思っています。
例えば、子どもたちが街へ向かう途中の検問所では、
背景に「預言者イブラヒムが火から救われた場所」
とされる歴史的建造物があります。
実力確かな撮影監督は、当然褒められるべきですが、
ハサン・ハーディ監督の才能が結実した作品。
ラドゥ・ジューデ監督の作品を観ていた時、
新しい撮影監督が参加していることに気づきました。
その撮影がとても素晴らしかったので、
彼(トゥードル・ヴラディミール・パンドゥル)に脚本を送り、
一度話をしてみようと思いました。
この物語について10分か15分ほど話しただけで、
「この人しかいない」と確信しました。
彼は私が実現したい映像を、本当に感情豊かに、
しかも映像的な言葉で語ってくれました。
劇中、
新人監督でもあり、アメリカの手配が万全なのかとも、
想像してました。
ただ、現地を知らない異国人には撮れない映像かとも、
やはり、ハーディ監督の才能なのですね。
発掘されて、本当によかった。
イラクの事情を考えれば、
特に子役は、演技未経験が必然かもしれない。
そこで、演技そのものだけでなく、演出も褒めたい。

是枝裕和的なメソッドが、大変有効に機能。
一つ目は、「『カット』と言われるまでは絶対に役から抜けないこと」。
カットがかかるまでは、その世界に生き続けるということです。
もう一つは、「正解も間違いもない」ということ。
子どもたちは学校生活の中で、
「間違えたら直さなければいけない」と考える習慣があります。
でも私は、「相手の俳優が脚本にないことをしても、
それを訂正する必要はない。
ただ、その場で起きたことに反応すればいい」と伝えました。
そうすることで、「正しく演じなければならない」
というプレッシャーから解放することができました。
その結果、彼らはただその場に存在し、
その瞬間を生きることができました。
私はそこに、本物らしさが生まれたと思っています。
脚本も兼任しつつ、演出家の技量も無くば出来ない事。
まあ、本当に、
才能あり、映画で社会を描くなら、
より将来ある世代に関心向けてよ。
私も含め先の短い世代は、どうせ死ぬんだし。
思えば、
パルムドール以降の是枝監督は、
子供を描いて、あざとい雑念が感じられてしまう。
(「怪物」でLGBTぶっ込むなど)
そこで、
イラクの新人監督へ、イランの巨匠から示唆。
受賞のステージで、
(『シンプル・アクシデント/偶然』でパルムドールを受賞した)
ジャファル・パナヒ監督と一緒にいた時のことを覚えています。
彼は私にこう言いました。
「気をつけなさい。私は30年前にその賞を獲ったが、
その後、次の長編映画を作るのが本当に大変だった。
誰もが期待を寄せるようになるからね。
だから、君は君のやるべきことをやりなさい。
プレッシャーなんて気にする必要はない。
自分が好きなものを作り続ければ、それでいいんだ」と。
才能を存分に開花させて欲しいものです。
2.イラクの実情について知りうること
砂漠の国のイメージですが、イラン国境付近の湿地帯の存在は既知。

ソースは、いつも高野秀行です。
スンナ派のサダム・フセイン政権は、
宗教には比較的寛容だったが、
国民の多数を占めるシーア派の動向には、神経を尖らせ、
反政府運動の拠点と成りうる湿地帯を潰そうとした。
その後、
ISが跋扈する地域にも成ってしまうのは、また別のお話。
この地域が舞台となる映画を観る機会に恵まれるとは、
前出のとおり、気合の入った水上の撮影に驚きました。
政府軍キャンプで、売春らしき描写も見掛け確認。
米軍占領下のイラクの取材ですが証言を得る。
「売春はオープンに近かったよ。
ナイトクラブや売春宿はいたる所にあったしね。
店が減っていったのは、
欧米の経済制裁を受けてからサウジアラビアとつき合うようになって、
フセインもイスラム教をある程度、意識しないといけなくなってからだよ。
それまでは、イスラム教徒だけでなく、キリスト教徒、クルド人、
多くの民族をまとめるうえで、
ひとつの宗教で国民を縛るのは得策ではなかったから、
イラクは世俗的な国だったんだ。
それだから、売春の取り締まりも厳しくなかったんだよ。
ナイトクラブもパレスチナホテルだけじゃなくて、
街中にもあったからね」
劇中の時代にも、
顔も覆わず洋服を着た、
そんな職業の女性が居たのか?
不思議とも感じるも、現実的な背景を知る。
さらに、
意外にも、ここで”独裁ガー”への違和感も裏付けられ。
湾岸戦争後は、中学高校の試験にコーランが加えられるなど、
イスラム教を利用する政治手法が顕著になっていった。
それまで、フセイン政権は社会的な不満分子になりうる集団に対しては、
石油から得られる莫大な富を分配し、反乱を防いできた。
しかし、それが不可能となると、イスラム教に頼り、
自身の肖像を掲げるなどの手法を取るようになっていった。
そうしたフセインの生き残り政策も功を奏さず、
アメリカから大量破壊兵器の存在を疑われ、
あえなく独裁者の椅子から引きずり下ろされてしまった。
フセイン政権下では取り締まりがあったものの、
それでも他のアラブ諸国から比べると、
まだまだ売春に対する大らかさがあったため、
米兵たちが娼婦たちを見つけることは
そんなに難しいことではなかったのだ。
娼婦たちはフセインの贈り物ともいえた。
古よりの都バグダッドで、
様々な宗教、民族、文化が行き交うのは、当然でしたね。
フセインは最初、反乱が起こらないよう融和的な政策を取り、
戦局厳しくなってから、締付けを強化した。らしい。
暗闇の中から女が二人顔を出した。ここで働いている娼婦だった。
「二人ともロマなんだ。最近になってここで働きはじめたんだ。
フセインの時代にはいい暮らしをしていたみたいだけど、
今では仕事にあぶれて、ここに来たんだ」
-中略-
フセイン政権下では少数民族を保護する政策を取っていたため、
惨めな暮らしをすることなく、楽士などをやりながら生活できていた。
しかし、政権崩壊とともに、人々の心の中にある潜在的な差別意識が露となり、
公職を追われ、厳しい生活を強いられているという。
単純化し過ぎは洗脳の元かと、ここで疑う。
3.”独裁だから” も思想教育に見えて(若干ネタバレ)
幾つかの評で見掛けた、
”独裁ガー”という紋切り型に賛同出来ない。
この程度に腐敗した組織、大人の冷酷さは、
経験してきた様な気がしてしまう。
独裁=悪、民主主義=善 の二元論は、
私も受けた、戦後日本の思想教育。
劇中描かれる、
”フセイン大統領万歳”を叫ぶ、少年兵たちの姿に瓜二つ。
北朝鮮は、民主主義の共和国を名乗る。
イランでは、選挙で大統領も議員も選ばれる。
多数決で決めれば独裁でないとは特定できない。
いわんや、戦前の日本おや、
打開策が無い中、
暗殺と政権交代で政治が疲弊して、翼賛体制が成った。
空気が全てを支配する国で。
「星野君の二塁打」や、「ユーフォ最終章」に見られる、
入口さえ多数決の意思決定なら、
途中から権力が暴走しても、
寛容な人々のコミュニティ。
鑑賞中は、
学校という所の恐ろしさを、まざまざと思い出しました。
4.そんな時代も、と観て良いか
腐敗した社会の理不尽を赤裸々に描いても、
サダム・フセインの時代、
アメリカの空爆と経済制裁の激しい、
そんな過去なら、
現在のイラク当局の、お咎めは逃れそう。
鑑賞中の私は、
湾岸戦争当時の実体験を描いただけなのか。
米軍完全撤退迫る現在を告発してるのか、
監督の本心を推し量ることは出来ませんでした。
そこはかとなく、後者にも思えていた。
実際は、
新人監督がフランスで賞獲るくらいは、復興して、
逆に、
このままでは、当時の出来事も風化してしまうと、
体験したありのままを、描いたのでしょう。
生きるって大変。
辛い現実を見せつけられる時間ですが、
この作品を鑑賞できる事を素直に喜びたい。
辛い現実ですが、
希望を感じるのは、負けた後。
2026.07.17 17:30現在
チャネルラインを割り込んで前の安値まで下落。
下落は想定ですが、今週末で割り込むとは、若干しくじり。
来週の事は来週考えます。

