年末年始は、
気楽にホンワカとした気持ちに成れる作品を探し、
結果、立て続けに感情が動かない映画を立て続けに観る始末。
それならいっそ、
陰惨と形容されるも日本映画の傑作と誉れ高い本作をチョイス。
得難い機会かもしれない。
原作は未読です。長いし。

世間の評をネタバレ避け読むと、
松本清張同様に、社会派ミステリーとして先鞭をつけるも、
「砂の器」ともども、着地に迷走とも聞く。
映画は3時間の大作。それでもサブストーリーを端折りつつ、
概ね、原作に忠実らしい。
あらすじを飛ばしWikipediaの知識は入れる。
やはり内田吐夢は狂ってるな。
バンジュンと高倉、樽見京一郎(三國連太郎)の妻を演じた風見章子に対する内田の今日いうパワハラ演技指導は特に酷いものだったといわれる
-中略-
内田が猛烈な台風により、連絡船が転覆して混乱する夜の函館湾を再現しようとしたからで、
映画では冒頭となるこの函館ロケは上磯町七重浜(現在の北斗市)で行われ、東撮俳優陣が総出演。
無名俳優は当地の消防団や漁師らに扮し、スタッフ、500人のエキストラともども大量の自動車を準備させて台風待ちという無謀なもので、
内田のイメージする悪天候になかなかならず、撮影が延びに延び、
何時現場招集が掛かるか知れない旅館の一室で待機すること二週間
期待は自然と募る。
左幸子の記憶は、晩年バラエティで見かけた事だけ、辛くて避けた。
妹さんの左時枝はTVドラマで沢山。ちょっと影を感じさせる名脇役。
ヒロイン・杉戸八重役には岡田が佐久間良子を推し、内田も了解した。
しかし、岡田が京撮に戻ると内田が左幸子に変更した。
「皮膚の表面でこの悲しい女を知っているのではなく、
もっと深いところで理解するためには左幸子しか出来ない」と話した
今なら、
長澤まさみを、岸井ゆきの又は伊藤沙莉に代えるようなものか。
監督が正常過ぎると、スカスカな熱量を感じてしまう事も有るが、
本作は、そんなこと絶対に無さそう。
ワクワクと文芸坐へ。
《 開演 》
画面から伝わる狂気が凄いですね。やっぱり。
内容は、「砂の器」の先鞭だけあり、ちょっと微妙。(後述)
演技よりは、演出に驚嘆しました。
1.一杯の画角に行き届いた計算
2.「砂の器」の先鞭だけに内容は?
2.1.時系列整理
2.2.前半はアイディアに映像で応える(ネタバレ)
2.3.後半は全てが微妙過ぎる(ネタバレ)
3.丁度の演出
3.1.情報量のバランス、説明セリフだって
3.2.長回しと言うがテンポ良く
3.3.演技させない演技
と、心が大いに動く。
1.一杯の画角に行き届いた計算
狂気と情熱にミチミチの画面は、数有れど、
大抵は、
疲れるほど情報量多い。か、
動かず、堂々と撮る。
のいずれか。
本作は娯楽作ですから、
引き算のやり過ぎ、余白たっぷりスカスカは当然無い。
逆に、
情報量が多すぎて、見辛いも避けている。
スッキリ観ることが出来る。
通常の映画だとビスタサイズが多く、
文芸坐のスクリーンは幅が余るところ、
本作は大スクリーン一杯にギチギチで、
持て余す事無く、空間を無駄無く使い、
かつ、詰め込み過ぎもせず、
奥行きも自在に使う。
映画的画面なのに、風格に頼り過ぎもせず、
カメラ能く動いて、ダイナミズムも発揮。
この丁度良さは、余り観たことが有りません。
逸話通りに、
ノイズを許さない、
恐ろしい監督だったのだと、伝わります。
前半、画面の揺れがキツイのですが、
津軽海峡の時化に漕ぎ出す小舟を表現する、計算でしょうか。
撮影過酷そう。
長回しと言われますが、カメラよく動きます。
途中から、導線に逆らわず、余り疲れない。
東京編での、
闇市のオープンセットは、信じられないスケールですが、
それを存分に活かすよう、3次元的に撮り方工夫されています。
ドローンもCGも無い時代。
音楽は程よく、画面を邪魔しません。
ああ、思い出すと、
遠い昔にTV(テレ東深夜かNHKBS)で、
萬屋錦之介の武蔵を観てました。
これも、小次郎が無口でない高倉健で意外でした。
ま、何と言っても、吉岡一門との対決が圧巻で、
画角一杯に激流のような殺陣でした。
思えば、平面的にならず、必ず空間を感じてました。
かと言って、
実相寺昭雄(庵野秀明)ほどアングルがクセ強でも無く。
で、
ジョン・フォード(黒澤明)とも流派の違うダイナミズム。
昭和の時代でも、イチニを争うパワハラ体質の監督で、
画作りに、心血注いだことが忍ばれます。
それでも、3時間は長いですけどね。
迫力満点なのに、流れるようにスムーズな画面なので、
飽きることなく、引き込まれます。
2.「砂の器」の先鞭だけに内容は?
社会派ミステリーの先駆けですけれど、
推理もの、捜査ものとしては、脆弱です。
画の質量に比べて、お話は弱いなと、観てて感じました。
ストーリーに弱点が有っても、感動させられると、
「砂の器」は模範にしたのでしょうね。
個人的には、破綻したミステリーは嫌いですが、
重厚さと娯楽の面白さのバランスが高度成長期に追求された。
ま、
ちょっと、ネタバレしますが、順を追って。
2.1.時系列整理
1945(昭和20)年 敗戦
1947(昭和22)年 劇中の洞爺丸海難事故、岩内大火
1952(昭和27)年 GHQ撤収
1954(昭和29)年 現実の洞爺丸海難事故、岩内大火
1958(昭和33)年 赤線廃止
1963(昭和38)年 小説「飢餓海峡」刊行
1964(昭和39)年 映画「宮本武蔵 一乗寺の決斗」公開
1964(昭和39)年 東京オリンピック
1965(昭和40)年 映画「飢餓海峡」公開
1965(昭和40)年 映画「宮本武蔵 巌流島の決斗」公開
1974(昭和49)年 映画「砂の器」公開
原作者水上勉は、松本清張にもインスパイアされ、
函館付近の台風が原因の2つの災害を、
結びつけるアイディアを得て、
戦後のドサクサ期に舞台を移し、
当時の食うや食わずの時代を描きつつの、
社会派ミステリーを発表する。
高度経済成長期を迎える日本で、
過去と決別する物語が受け入れられた。
TVが普及する直前で、まだ映画が娯楽の王様だった。
本作は、
前半は、戦後スグの時代に、函館湾で事件が起こる。
後半は、赤線廃止の時代が現在で、復興の離陸期に再会。
それぞれの時代を、
高度経済成長期の入口に制作の映画で、再現している。
2.2.前半はアイディアに映像で応える(ネタバレ)
荒れる沿岸の撮影は、資本的にも、安全的にも、今じゃ無理そう。
北国の貧困を再現するのは、本作の目玉ですから、
過酷にも、神経行き届いて、抜かり無い。
明るい中に、悲惨な生い立ちを伺わせるヒロインは、
左幸子しか居ない。
女の色気より、ちょっとヤバ目の無邪気を残す。
苦悩に満ちた、大男の悪役は、当に三國連太郎。
満州から引き上げ、いろんな商売に手を染めた過去も滲む。
サイコパス味ある役も似合う。
そんな二人が、そんな大湊の宿屋で、
一夜を過ごすし、人生の転機となる。
伴淳三郎刑事の捜査を丹念に描くことで、
事件のあらましが、狂言回し的にも説明される。
説明セリフも程よく、観客を迷子にしない。
公開時は、伴淳三郎のシーンが多く削られたと言います。
無くても分かるけど、見辛い。
伴淳三郎の家族のシーンは要らないとも思えますが、
実直に努め、
貧しくとも家庭を築き、
子供は健全に成長。
その姿を描く事は、この時代の要請でしょうね。
アート系だったら、前半部分だけで終わりそうです。
それだけで、むしろ傑作ですが、
娯楽作は物語にケリを着けんとね。
2.3.後半は全てが微妙過ぎる(ネタバレ)
事件から10年後、
左幸子は、貰ったカネで東京に出て、赤線廃止を迎え。
三國連太郎は、名を変え起業して成功。
「砂の器」の方が後出しで、
ヒロインは新聞記事で、ヒール役の立身を知り、
京都舞鶴まで会いにゆき、犯人は過去の隠蔽を図る。
商売成功したとて、身バレは避けろよ。
事情を察し、何も直接会いに往かずとも。
会わなくていいし、最後までシラを切ればいい。
カネで解決しようとしたっていい。
何もヤっちまわんでも。
女は本当はカネ目当てかもしれないが、
画面上は、イノセントなメンヘラに描かれる。
そこから、先は現実味が全く無い。
ミステリーとしては論外。
現役刑事の高倉健と、伴淳三郎が遇ったとしても、
捜査に参加は、荒唐無稽過ぎる。
警察は検察でもないし、司法でもない。
戦後教育で三権分立は習うんだよ。
証拠も無く、逮捕令状取れるのか、
勾留の延長時に、
わざわざ津軽海峡まで出掛ける理由が弱い。
現在の嫌疑で身柄拘束してんだろ。昔の事じゃない。
原作からして、荒唐無稽だと想像するのですが、
情に訴えられれば、ご都合で構わないと割り切っている。
過去を消す為に、人の命を奪うのは、弁解の余地無し。
貧困のセイにすんなよ。他責が過ぎる。
画は後半も、相変わらず凄いけど、お話はダメだ。
ドラマは前半だけにして、
後日譚として、それぞれの10年後を描くだけ。
だったら、文句無しだったのにと、令和の目では断じます。
3.丁度の演出
本作の評となると、あらすじを追うものしか見つけられず。
ちゃんと褒めるべきだと、不満でした。
画作りに留まらず、情報量の匙加減全般を称えたい。
3.1.情報量のバランス、説明セリフだって
映像だけでなく、過不足の無い演出についても言及します。
セリフの説明で充分な部分は無理に映像でと頑張らないし、
しかし、現代劇の過剰な独り言でもない。
わかり易さと表現を両立しています。今では珍しい。
3.1.長回しと言うがテンポ良く
兎角、長回しというとダレ気味で、
カット割ってテンポ感出す市川崑的手法と対比されガチ。
そんなこと全く無いです。
カメラが動く工夫も相まって、
停滞なく、スパッと切り替わります。
TV的な画なら、それも多いですが、
大画面を持て余す事無く、リズムも失わない。
3.3.演技させない演技
大仰な演技は嫌ってますよね。監督。
敢えて、棒で構わないと。
客が鼻白らむようなことは、厳に慎む。
わかり易さは維持したままで、雰囲気を伝えたい。
このバランスは、現代に無い。
昔はいろいろと、苦労したんだろなと窺わせながら、
セリフは感情乗せ過ぎず、坦々と。
急がず、遅れずの丁度動くように。
ちょっとでもズレたら、
”もう一回”だったのだろうな。パワハラ気味に。
お話には不満です。
戦後のドサクサは誰でもでしょう、
しかし、
英題どおり ”過去からの逃亡者”が、全て貧困が悪いは他責過ぎ。
それでも10年単位で、時代を描き切り、
公開当時の、昭和の空気も伝える。稀な作品でした。
命懸けの映画人も、時代の要請でしょうかね。
正月早々、貴重な体験を吉とします。
昭和の上野は希望の駅だと、
なんとなく、記憶に有り。
いつの時代も生きるって大変。とも思う。
2025.01.04 現在
新春ご祝儀相場で、2σ抜けますでしょうか。
もっとスクイーズしてから、どちらかに振れそう。
ベネズエラの影響は分かりません。
